ブレイク直前のバンド、“ミセス”こと「Mrs. GREEN APPLE」のフロントマンである大森元貴。第1回に続き、リリースしたばかりのニューシングルだけでなく、独特なサウンド作りの秘密や気になる今後についても語った第2回。
転機は「ミセス」第2章の始まり
――インディーズを経て、2015年にメジャーデビューした「Mrs. GREEN APPLE(以下、ミセス)」ですが、結成から2年というタイミングは大森さん自身、どのように思われましたか?
僕個人としては、もっと早くメジャーに行きたかった気持ちがあったこともあり、「やっと!」でしたが、「Mrs. GREEN APPLE」というバンドで出るには、ちょっと早かったかなと思っています。人柄でメンバーを決めて、人の繋がりで音楽を作っていたので、音楽的な部分がどこか弱かったからです。藤澤(涼架)はクラシックのピアノをずっとやってきて、バンドに入るタイミングでキーボードやシンセサイザーを始めていたり、じつは割と初心者が多いんです。自分らの持っているポテンシャルとか、自分らのやりたい潜在意識みたいなものは分かっていても、それをアウトプットできる力が全然なかった。だから、4人の中で焦りみたいなものはありましたが、ライブの本数が多かったこともあり、短期間でそこも克服できたと思います。
――そんな「Mrs. GREEN APPLE」の結成後、大きな転機になった出来事を教えてください。
メジャーデビューに向けて切磋琢磨していたのに、その前に前任のベースが抜けてしまって、みんな自分のエネルギーをどこに持っていっていいか分からなくなってしまった、と思うんです。それで髙野(清宗)が入ったことにより、新たにデビューに向けてスタートダッシュを切れる感じがしたんです。つまり、「Mrs. GREEN APPLE」における第2章の始まりが転機だと思っています。
久しぶりに棘のある曲が書けたニューシングル「WanteD! WanteD!」
――17年1月、2ndフルアルバム『Mrs. GREEN APPLE』をリリース。自身のバンド名を付けるあたり、かなりの自信を感じましたが、今後も代表曲となるであろう「鯨の唄」を初収録するなど、心境の変化みたいなものはあったのでしょうか?
バンドを組んで4年、まだまだ「Mrs. GREEN APPLE」というバンドを自分らでも噛み砕けていないまま、爆速で進んできたところもあって、ここで一回“「Mrs. GREEN APPLE」とは何なのか? ここで何をやりたいのか? ”を再確認したいということで、僕が曲を作るより先に、アルバムタイトルを決めたんです。「鯨の唄」については、15年の初ワンマンに向けて作った曲ですが、ストリングスも入っているし、今後核になるような曲になることは分かっていても、当時はその存在があまりに大きくて、曲が持っているエネルギーに負けてしまったんです。そのときのライブでもちゃんと表現できなかったし、僕自身もどう扱っていいか分からなかったんですが、ここまでバンドが成長したことで、そのエネルギーをちゃんと扱えるようになった気がしたんです。ただ、こういう壮大な曲も僕らの一面でしかないと思っているので、あえてアルバムの最後に入れるようなことは避けました。どこかこの曲に頼りたくはなかったんです。
――8月30日リリースのニューシングル「WanteD! WanteD!」はドラマ「僕たちがやりました」のオープニングテーマに。C/Wの「On My MiND」もアニメ「ナナマル サンバツ」のオープニングテーマになっています。
「WanteD! WanteD!」は、最初ドラマのプロデューサーさんとお話しさせていただいて、原作を読ませてもらったら、9巻を一気に読んでしまうぐらい面白かったんです。そうやって、自分が面白いと没頭した感覚をエネルギーとして曲に落とし込みたいという気持ちと、最近の「Mrs. GREEN APPLE」=ポップで明るいイメージを打破してシニカルに楽しみたいという気持ちから、久々に棘のある曲を書きたいと思いました。「On My MiND」は、クイズをテーマにした高校生が主人公の原作で、個性豊かなキャラクターとストーリーが爆速で進んでいくお話だったこともあり、僕らの曲が合うのかなと思いながら曲作りをしていきました。実際にTVで放送されると、地元の友だちから連絡をもらったりして素直に嬉しいです。自分が書いた曲がTVから流れてくるという概念がなくて、何が起きているのか分からなくなるんです。だから、第三者から「見たよ」と言われて、初めて実感できるんですよ。
ティーンを夢中にさせるサウンド作り
――デビューミニアルバム『Variety』の収録曲「StaRt」が現在「メリット シャンプー」のCMに使われているのにも、今の「ミセス」の勢いを感じます。
新曲じゃなくて、2年前の自分らのデビュー曲がTVから流れてくるのも変な感じですよね。自分たちのことを気にかけてくれたり、いいなと思ってくれたりするのは、どんなタイミングでも嬉しいことですから。嬉しくてハッピーな気持ちだけど、こっ恥ずかしいです。じつは「StaRt」と新曲「On My MiND」はとても関連性があって、「On My MiND」は当時レコーディングで使っていたアイリッシュ楽器や、曲の速さであるBPMとかが、「StaRt」の楽曲の音作りに寄せているというか、ほぼ一緒なんです。それに、答えを探していく原作ということもあり、デビューから2年経った自分たちも、新たな答えを探すような感じで、「StaRt」の形態を借りて、新曲を作っていくという気持ちだったんです。
――ストレートな歌詞やキャッチーなメロディなどで、今や中・高生など、ティーンに絶大な人気を誇るバンドに成長しましたが、どのあたりから彼らを意識した曲作りを始めたのでしょうか?
いちばん最初からではなく、1stシングルの「Speaking」から、具体的に意識し始めたと思います。僕自身、小学生のときにMONGOL800を聴いていて、今でも決して褪せないというか、スゴく残っているんです。だから、音楽を聴き始める世代というか、思春期を迎える世代に作品を届けることができたら、それは尊いし、有り難いことだと思って、曲を書き始めたのがきっかけです。でも、とても敏感だし、サイクルが早いから、その世代に届かせることはスゴく難しいことだと思うんですよ。あえて心掛けていることは、音の多さ。5人のバンドなのにバグパイプの音が入っていたり、バンドといえど、僕はバンドマンありきの曲の作り方をあえてしてなくて、面白いと思った楽器はどんどん入れているんです。ほかにも情報量の多さだったり、BPMの速さだったり、若いコに面白いなと思ってもらえたらいいな、と意図して作っている部分はあります。
「紅白歌合戦」に出られるようなバンドになる
――着実に、ライブ動員数やCDセールスで結果を出していますが、この短期間で、なぜここまで来ることができたと思いますか? 弱冠20歳ながら、しっかりしたヴィジョンを持った大森さんと関係しているような気がしますが……。
言葉を選ぶのが難しいですね(笑)。結果を出せた理由のひとつは自分に自信があって、自分を信じてこられたからだと思うんです。たとえ、自信を持てなかったとしても、学校に行かないで曲作りしていたとか、無理矢理に自信を持てるような行動も取っていたし。とにかく自分がやりたいこと、なりたいことが明確だったし、努力を努力と思わず、楽しんでやっていたからじゃないでしょうか。僕については、7歳上の兄と14歳上の兄がいる環境だったことが大きいかと思います。小学生のときに友だちの家に遊びに行っても、隣で話しているお母さんの会話を聞く方が楽しかったぐらいですから(笑)。正直、中学に行かなくなった理由も、同級生と話しても自分の話が伝わらない感じがしたということもあるんです。最近になって、やっと同い年の友だちと楽しく話せるようになったんですよ。
――すでに日本武道館でのライブは射程圏内だと思いますが、「ミセス」としての今後の目標について教えてください。
結成時からみんなで話しているのが、「紅白歌合戦」に出られるようなバンドになりたいということです。“紅白に出場する=誰もが知っている国民的アーティスト”というイメージなので、それは今でも変わりません。もうひとつ、海外でライブしてみたいという気持ちがスゴく強いです。ジャスティン・ビーバー、ワン・ダイレクション、マルーン5、ザ・ヴァンプスなど、音楽的な部分で海外から感化された部分はあるし、言葉が通じない分、音楽のエネルギーを感じてみたい気持ちはあります。最近、ライブがライブハウスからホール中心になって、物理的な、目で見える違いは感じているんですけれど、もちろんアリーナでも、スタジアムでもやりたいです。ただ、それは「紅白」と繋がっていると思うんですよね。
常にアンテナを張っていられるように
――最後に、大森さん自身の目標を教えてください。たとえば、俳優業に興味はありますか?
俳優業に関しては、スゴく興味あります! 俳優さんが多く所属する今の事務所(テアトルアカデミー)のオーディションを受けたのも、多少は興味があったからなわけですし、違うところでの作品との繋がりというか、表現みたいなものに興味があります。近い将来やってみたいのは、ほかの方とのコラボ。バンド結成当時も、「ミセス」に楽曲提供している気持ちでしたが、海外の方だったり、アイドルやDJの方などと、自分の中にまったくないエネルギーみたいななかで、作品作りしたいです。(アイドルグループの)「夢みるアドレセンス」に提供した「恋のエフェクトMAGIC」もスゴい楽しかったし(笑)。とにかく表現者として、アーティストとして、今後も常にアンテナを張っていられるようにハングリーでいたいと思います。あと、ずっと仕事ばかりしていると、考え方が凝り固まったりするので、あえて地元の友だちと買い物に行ったり、ご飯に行ったりする、いわゆる普通の感覚も大事だと思っています。(講義の)単位やバイトなど、大学生ならではの話はなかなか聞けませんし。ただ、あまりに爆速で生き急いでいる感もあるので、早死にしないよう気を付けたいです(笑)。
大森元貴(おおもり・もとき)
1996年9月14日生まれ。東京都出身。13年、5人組ロックバンド「Mrs. GREEN APPLE」を結成し、ヴォーカル・ギターを担当。また、すべての楽曲の作詞・作曲を担当する。15年、ミニアルバム『Variety』でメジャーデビュー。現在、パーソナリティを務めるラジオ「Mrs. RADIO JACK」(JFN系列全国14局)が放送中。
Mrs. GREEN APPLE
5th SINGLE「WanteD! WanteD!」
疾走感と中毒性の高いクールなビートに合わせて、「僕らは逃げている」から「僕らは生きている」へと発展する、スケール感のある歌詞が印象的なダンスチューン「WanteD! WanteD!」。ミセスの王道のポップナンバーでありつつ、こちらもブレイクを多用した独特なビートが印象的で爽快な「On My MiND」。これらに加え、バンド結成前に作られたという「光のうた」をバンドアレンジで初音源化。
2017年8月30日(水)リリース
【初回盤:CD+DVD】[UPCH-89356] 1,700円(税抜)、【通常盤:CD】[UPCH-80477] 1,200円(税抜)
http://www.universal-music.co.jp/mrsgreenapple/
<収録内容>
【CD】
1.「WanteD! WanteD!」(カンテレ・フジテレビ系ドラマ「僕たちがやりました」オープニング曲)
2.「On My MiND」(日本テレビほかアニメ「ナナマル サンバツ」オープニングテーマ)
3.「光のうた」
【DVD】
・「WanteD! WanteD!」Music Video
・The Making of「WanteD! WanteD!」
・「MGA MEET YOU TOUR」 at 東京国際フォーラム ホールA on 19th May, 2017より[Lion/おもちゃの兵隊/鯨の唄/サママ・フェスティバル! /StaRt]
くれい響 (くれい ひびき)
1971年東京都出身。映画評論家。幼少時代から映画館に通い、大学在学中にクイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。その後、バラエティ番組制作を経て、「映画秘宝」(洋泉社)編集部員からフリーに。映画誌・情報誌のほか、劇場プログラムなどにも寄稿。
くれい響